ロード選手は毎日3,000〜6,000キロカロリーをバイク・ライディングで消費する。それに耐える為には大量に、そして適切に食べなければいけない。まぁ、まずは量を食べる事が大切だ。君達民草に我々ロード選手のフードライフの片鱗を紹介するために、私ことフィル・ガイモン伯爵がツアー・オフ・カリフォルニアのバッカス・ライフを紹介しよう。
朝食:8:00 a.m.
・フレンチトーストが二切れ
我がチームはメープルシロップがご禁制である。そして他のチームに頼んだところで京都人のようにいけずな彼らが分けてくれるはずもない。(テッド・キングはその時残念ながらいなかった。早撃ちテッドの二つ名を持つ彼は常にガンベルトのホルスターにメイプル・シロップを偲ばせているのだ。彼はバイクの上でもベッドの上でも名うての早撃ちだ)
・アメリカスタイルのトーストが二切れ
大切に共用トースターで育てていた最初の二切れは他の選手にパクられてしまった。(サンノゼ警察からはまだその後の捜査の進捗について連絡がない。しかしトースターから指紋は採取され、現在DNA検査の結果待ちだ。)間の悪い事にトレックのリカルド・ゾイドルが私のパンが盗まれたトースターでパンを焼いた。よって、この写真に写っているパンは彼の焼いていたパンであり、これではまるで私がドロボウである。(信じて欲しい。湖の水は飲めないし空も飛べないが。)後になって気が付いたのだが、私が焼いていたパンは全粒粉のパンだ。今私の口と逢瀬の真っ最中のこのパンは普通の白パンである。どうりでリカルドが先ほどからこちらをチラチラ疑惑の目で見ているわけだ...。ドロボウは私の心ではなくパンをとっていった。これではまるで私がドロボウである。リカルドに全てを説明しようと思った時には時既に遅しだった。リカルドがこの記事を読む事があればこの場で謝罪したい。
盗んだバイクで走り出したい気持ちを抑えながら、私は盗んだパンにスクランブルエッグをトッピングした。(もしかすると本物の卵じゃなくて、粉末の合成品かも) ビュッフェでアボガドが見つからなかったので私は心の中でバイロン的な毒舌を吐きながらウェイトレスにアボガドをお願いした。彼女は私をまるで初夏に雨に濡れた後に三日間床に放置された安物のソックスを見るような目で私を見た。しかしシェフはちゃんと綺麗にカットされて皿に丁寧に並べられたアボガドを持ってきてくれた。忙しいだろうからまるっと持ってきて私に切らせたとしても不思議ではなかった。彼は戦場のようなホテルの朝食ビュッフェのホテルシェフとして期待以上の良い仕事をしてくれた。
私がテーブルに座って貴族的仕草でアボガドにナイフを入れようとしたとき、チームメイトのトム・ザーベルが私のアボガドに目を留めた。
「なんだよぉ、伯爵ぅ。そのアボガドどこで手に入れたんだよぉ」
庶民とはかくも僻みっぽいものである。今や彼の脳細胞の87.5%はアボガドに占領されていた。
ため息まじりに私がトムに説明すると、彼もウェイトレスにアボガドを頼んだ。今回もシェフは快くアボガドを提供してくれた。しかし私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。トムと私はシェフにアボガドの秘密は墓まで持っていくと誓った。もしもこのレストランが好きなだけアボガドを出してくれると分かったら、欲望に目をぎらつかせたケダモノ・サイクリスト達がホテル中のアボガドを要求し、後世の歴史家は「ガイモン平八郎のアボガドの乱」「ア・ボーガド・ロリコン伯爵」という烙印を私に押す事だろう。それだけは避けねばならない。死人とトムに口なしだ。
飲んだもの:スイートティー(カフェインを抜いていないもの) ホテルの部屋で一晩点てておいた。
(続く)