2015年8月4日火曜日

[翻訳]フィル・ガイモンおおいに語る。クリーンってどういう意味だろう?(Cyclingnews)

アメリカ人プロライダー、フィル・ガイモンは選手が直面している倫理と規則のあいまいな境界線について本誌に語った。




「ギュゥイイイイイイーーーーン!」

タトゥーを掘る針が僕の腕に当たった。

僕の妹はタトゥーをしている。あいつが我慢出来たなら、僕にも我慢出来るはずさ。忘れては困るな。こちとらタフ・ガイで鳴らしたプロ・サイクリストだ。痛みには慣れっこだぜ。ぶははははははは......


「ギュゥイイイイイイーーーーン!」


1時間余り涙目になりながら、僕は右の力こぶに映画「ファイト・クラブ」のロゴ風な石鹸のタトゥーをいれてもらった。そいつには一言、「CLEAN」って書いてある。もし僕がレースで華やかな勝利を飾れば、僕の突き上げた右手でばっちり「CLEAM」のロゴが目立つって寸法さ。でも、夢はちょっと目論見と違った残念な形で叶えられた。(その時までに念を入れてタトゥーを2度書き直ししてもらったのだけは幸いだったけど)。でも、第34回USナショナル選手権でトップから9分遅れで身体がボロボロになりながらも、弱々しくその石鹸を振りかざす事が出来た事をとても誇りに思っている。

多くの人は僕がドーピングを憎むあまり、そして過去にその事で敵を作り、そしていやな思いをしたから僕がボロボロになりながらもそのCLEANタトゥーを振りかざしたんだと思っている。でも、そうじゃないんだ。ベン・キングとティラー・フィニーが全米選手権で勝ってくれたんだぜ。こんなに嬉しい事はなかったんだよ。

一つの理由は、僕らが携わっているこのスポーツの世間一般の印象の為だ。僕が定期検診で新しい病院に行き、職業欄に「サイクリスト」と書くと、彼らは必ずドアをバタンっと閉めてドア越しに聞くんだ。「分かった分かった。で、君はどんな薬をやっているの?ステロイド?成長促進剤?EPOかな?」ってね。

お医者さんいは罪はないよね。この2015年のツールドフランスの間でも、ファンとメディアは誰がドーピングしているかって話題でもちきりだ。サイクリング界の先輩達がいろいろお痛をしてくれたおかげで、今では強いライダー=ドーパーという図式になってしまっている。僕達は何年もこんな疑念を持たれ続け、そして際限なしに監視の目は強くなってきた。僕がCLEANのタトゥーを腕にいれたのは、疑うファンやドクター達に「僕はクスリに頼るようなプロじゃない!」と納得させたかったからだ。

CLEAN石鹸タトゥーの一番の動機、それは自分がレースを始めたばかりの時の初心者の気持ちをいつまでも忘れないでいたいからだ。「僕は絶対にクリーンにレースに勝つんだ」って。

もしも僕の夢がツールでの勝利だったとして、誰かが僕に甘い誘いをしてきたら? 僕は多くの元ドーパーにいろいろな話を聞き、そしてどうして善良なひとりの男がドーピングなんかに手を染めてしまうのかを知った。僕は同じ過ちを犯したくない。タトゥーは僕に思い出させてくれる。僕が何者なのか?そして僕はどう生きたいのか?を。

友達のアダム・マイヤーソンとニック・ウェイトも同じ年に石鹸タトゥーを彫った同士だ。僕達は厳しい戒律を結んだ。もし三人のなかの誰かがドーピングに手を染めたら、残りの二人は連帯責任でチーズ削り機でこの石鹸タトゥーを削り落とさなければいけない。その後、このファイトクラブには多くの賛同者が加わっている。このスポーツが選手を誠実に出来ないのであれば、僕らが自発的にそうするまでだ。

チームCLEANのこのコンセプトは時代錯誤の秘密結社めいて聞こえるだろう。だけどこんなアナログな誓いでも反古にするのは難しい。ユダヤの老人が彼らの聖典を説明してくれるのを聞いた事があるかい?経典の解釈は人それぞれだから説明も人によって違う。プロ・サイクリストがドーピングを語る時も一緒だ。プロ選手の数だけドーピングとはなにか?クリーンとはなにか?の答えがあるんだ。

ここで元ドーパーの話にしばしお付き合い願おう。チームメイトで友達のエリック・ヤングは、レーサー仲間では珍しくないけど、ビタミンのサプリメントを飲まない。「Flintstone’s Chewables(石器時代ビタミンサプリ)」はUSADAの禁止薬物リストに載る薬品とは程遠い単なる子供用のビタミンサプリメントだ。だけどエリックは必要なビタミンをサラダやベーコンからとり、それがない時はサプリに頼らない。彼がフレンチローストのエスプレッソを飲まない日はないけど、彼はカフェイン錠剤をけして飲まない。こういうのは馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないが、それでも彼は鬼のように速い。

マリファナはどうだろう?確かにこれはUSADAの禁止薬物リストに載っているし、何人かのプロがオフシーズンにハイになっているのも知っている。でも、僕はマリファナをやる事が競技上のドーピングに当たるとは思わない。でも僕はマリファナをやった事はない。僕がドーピングと思わなくてもドーピング検査ででポジティブになるのは怖いし、チーズ削り機でタトゥーを削る所を想像するだけでぞっとするからね。

その一方で、「禁止薬物リストに載ってないからこれはドーピングじゃない」と言い張る極端な連中もいる。ルール的にはこの言い分は正しい。彼らが罰せられるわけではない。もしも君のドクターが君にこう囁いたとしよう。「このクスリはあるラボの実検でハツカネズミのヒルクライム能力を飛躍的に向上させたんだよ。(僕的にはハツカネズミのかわいいシッポがスポークに絡みつかなかったか気になるが)。これはまだUSADAの禁止薬物リストには載ってない。だから「合法」なのさ」と。君はそのクスリを試し、いくつかのレースで勝利する。もちろん、ルール違反じゃない。でもフェアでもない。君はクスリからアドバンテージを貰っているんだ。君はルール的にクリーンだ。でも、そのルールの隙間をぬって得た勝利を喜ぶファンがいるだろうか?そして大事な事は、<君はそうやって手に入れた勝利が嬉しいのか?>という事。まるでボードゲームで子供に勝ってドヤ顔をしているような空しさを感じるだろう?

選手やチームはそういった類のドクターに近づかないように勤めてきた。でもアヘン系鎮痛剤のトラマドールを例にとってみよう。(実際に使った事はないよ。あくまでも例としての話だ)。多くのプロやチームはとラマドールを禁止薬物に指定すべきだと考えている。この鎮痛薬には中毒性があり、その結果として、多くのレース中の事故の原因とされてきたからだ。しかし、USADAの禁止薬物リストに載っていないので、トラマドールはドーピング薬物とは考えられていない。でも僕は自分の判断で、この薬を使おうとは思わない。

僕は最近高地トレーニングをしているので、毎日鉄のサプリメントを飲む事は問題がない。そしてサイクリングは運動負荷が低いし、僕は骨を健康に保ちたいと思っているので、カルシウムとマグネシウムのサプリメントも欲しい。何年か前、血液テストの結果、僕のテストステロン値(男性ホルモンの一種)が低い事が分かった。運動能力に影響する可能性があるので、僕はトリバラスというサプリメントを飲み始めた。テストステロン値が改善しなかったので、僕は飲む量を二倍にした。数ヶ月後、テストステロン値は標準域に戻った。それがトリバラスの為なのか、数ヶ月レースを休んでいたからかは分からない。多分、後者が原因なんじゃないかと思う。でも、僕はトリバラスの服用を念のために続けた。

EPOを試した事のある選手に聞いてみると、それがいかに如実にパフォーマンスに影響するかが分かる。6年間のプロ生活に様々なビタミン剤を飲んできて、僕は自分がレースで負けた時にいつもと違った違和感を感じた事はない。その感覚は僕が変なクスリを間違って飲んでしまったかどうかのセンサーになっている。もしも僕のドーピング検査の結果がポジティブになるなら、僕は違和感で分かると思し、もしも勝利がクスリの力で得たものだと思ったのなら、僕はそんな勝利なんかいらない。

何人かのサイクリング・ファンはドーピングをとても憎んでいる。と同時に、それについてあれこれ詮索し、やり玉に挙げるのが大好きだ。まるでアメフトファンが、1972年のマイアミ・ドルフィンズと2015年のニューイングランド・ペイトリオッツがもし戦ったらどっちが強いか?という意味のない議論が好きなのと同じように。でも考えて欲しい。君は自転車を愛するサイクリング・ファンのはずだ。それなのに君はマイヨジョーヌに唾を吐くだめだけに長い時間を沿道で待っていた。それって虚しくならないのかな?

「CLEANな選手」という言葉の意味は長い間、曖昧にされてきた。でも僕らの世代は長い間Twitterでの批判にさらされ続けてきた。Oprahでの告白(アームストロングのドーピング告白)に皆が失望したからかもしれない。そろそろ決めようじゃないか。「CLEANな選手」ってどういう意味だ?もちろん、ルールに反するもに近づいたらダメだ。でも、それだけではなく同時にフェアプレイの精神を持ち続けないといけない。そして10年経っても正しさが普遍であると信じた行動をするんだ。僕は断言する。もしも僕が自分がグレイ・ゾーンにいると気が付いた時には、ドクターやチームメイト、あるいはWADAのルールがどうであろうと、僕は自分自身で白黒はっきり付けるつもりだ。

僕らが馴れしたしんでしまったこのスポーツのドタバタは、この線引きが人によって違うからかもしれない。
それはそれでかまわないさ。エリック・ヤングが僕のカルシウム・サプリをやり玉に挙げさえしなけりゃね。



フィル・ガイモン
July 29, 2015 3:42pm


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