2014年8月20日水曜日

MANUAL FOR SPEED翻訳記事 (まったリングの王道:読書と昼寝) 後編 (担当:アレックス・ハウズ)

※本記事はMANUAL FOR SPEED MFSM-004の日本語翻訳である。全ての内容は元記事からの引用である。よって全ての権利もMFSに帰属する。



MFSM-004 PART2: 昼寝のまったリング


FIG-1 健康的になる

※MFSから引用



質の高い夜の睡眠を取る事が、必ずしも病気への免疫力をつけるとは限らない。だが、絶え間ない研究の末、睡眠不足は心臓疾患、心臓発作、糖尿病、肥満等の重度の健康障害と関係がある事が判明してきた。

多くの場合、睡眠不足による健康への障害は、何年もたってから深刻な健康問題となるが、いつもそうとは限らない。けれども、10人の健康な成人に対してシフト勤務に特有の不安定な睡眠パターンを体験させた実験によると、実験開始からわずか4日の後に、10人のうち3人の血中ブドウ糖濃度は、初期の糖尿病レベルに上昇していたのだ。



FIG-2 性生活の充実


ツールに備え性生活を断った経験をお持ちの匿名希望A.Hさん. ※MFSから引用



全米睡眠協会による意識調査によると、26%以上の人々が疲れによって性生活に支障をきたしていると感じているという。詳しい因果関係はいまだに明らかになっていないが、男性では睡眠不足はテストステロン(男性ホルモンの一種)の低下によって引き起こされるという証拠も見つかっている。

もちろん、睡眠不足は疲れとか男性ホルモンの低下といかいう以前に、直接的にあなたの性生活にダメージを与える。「もしも君が28歳で、映画館でのデート中にうとうとしてしまうようならば、それは危険信号だ」と、医学博士でもあり、全米睡眠薬学会の広報担当、コロラド睡眠障害センターの専門家であるリチャード・クラマー博士は語る。
(※ハウズ:ヘイヘイヘ〜イ!性生活に問題のある28歳に心当たりありすぎるぜ!)

FIG-3 痛みを抑える


痛みは黒歴史の厨二ブログと語る匿名希望のA.Hさん ※MFSから引用


もしも君が慢性的な痛みや、怪我の後遺症でのひどい痛みに苦しんでいるのなら、十分な睡眠で痛みを軽減出来るかもしれない。
多くの研究で、睡眠不足と痛みの感じ方には関連性があると判明している。しかし残念な事に痛みがあると十分な睡眠を取る事が難しい。

研究者は、質の高い睡眠が鎮痛剤を補う効果がある事を発見した。もし痛みで眠る事が難しいのであれば、鎮痛効果と睡眠導入効果を兼ね備えた薬を服用するのもいいだろう。

FIG-4 怪我の予防になる

女に振られた傷は勲章と語る匿名希望のマッドドッグさん。※MFSから引用



十分な睡眠は君を実際に安全にするかもしれない。睡眠不足はスペースシャトルのチャレンジャー爆発事故や、エクソン・バルデス号の座礁など、多くの重大事故の原因となってきた。米国医学研究所はおよそ5分の1の交通事故が居眠り運転により引き起こされると見積もっている。1年におよそ100万件の交通事故が居眠りにより引き起こされるという計算になる。

もちろん、どのような種類の事故も、あなたが疲れている時に発生する傾向がある。セント・ジョセフ大学生理学教授で、書籍「睡眠不足はもうたくさん」の著者でもあるジョディ・マインデル博士は言う。「あなたが寝不足で疲れている時には、あなたはもうろうとしていたり、ハシゴから落ちたり、野菜を刻んでいる時に指を切ったりしがちです。家庭内のこのような事故は、さらに重大な事故に繋がる可能性があるのです。」

FIG-5 気分が良くなる

ツール・ロスターに入った喜びを太陽礼拝のポーズで表現する匿名希望のA.H.さん ※MFSから引用



十分な睡眠を取る事で、必ずしもリア充的な明るい性格になれるわけではない。でも、疲れている時にはおおむね怒りっぽくなる事は君も経験から分かっているだろう。これはなにも、睡眠不足があなたの機嫌を決めるというだけの話ではない。マインデル博士は語る。「疲れすぎている時、人は上司にキレたり、急に涙が出たり、何故か笑いが止まらなくなったりする傾向があります。」

FIG-6 痩せる

コアトレの時は心で「オレがガーミンだ」と呟くという匿名希望のA.H.さん ※MFSから引用



十分な睡眠はダイエット効果もある。逆に睡眠不足の時には太りやすい。なぜか? 原因の一つは行動面の変化だ。あなたが疲れ切っていれば、仕事の後にジョギングをしたり、ヘルシーな夕食を作る事は難しい。

肥満の他の原因は生理学的なものだ。レプチン(食欲を抑制するホルモン)は、人が疲れている時の満腹感を司る重要な役割を担っている。疲れ切っている人はこのレプチンが低下しているので、純粋な飢餓感が続き、高脂肪、高カロリーの食事を特にガツガツ食べやすい。


FIG-7 思考が明瞭になる

底なしの知恵を草原の広さで表現している匿名希望のA.H.さん ※MFSから引用



寝苦しかった翌朝の目覚めの気分を思い出して欲しい。ボンヤリして、頭はボケて、まるで君の脳がローギアに入ったままのような気分だった事だろう。

「睡眠不足はあなたの考え方に影響を及ぼします」マインデル教授はWebMD(ウェッブの医療サービス)で語っている。「睡眠不足はあなたの認知力を弱めます。あなたの注意力、意思決定能力に影響を及ぼすのです。」研究の結果、睡眠不足の人は論理的判断や数学的問題の解答能力が、十分な睡眠を取った人よりも大幅に劣る事が判明している。「睡眠不足の人は、家の鍵を冷蔵庫の中にうっかり置き忘れてしまうような単純ミスをしやすいのです。」


FIG-8 記憶力が良くなる

ひらめいた戦術アイディアをストレッチボールで表現している匿名希望のA.H.さん。※MFSから引用



物忘れがひどくなったと感じていないだろうか?それは睡眠不足のせいかもしれない。研究によれば、我々が寝ている間に、脳はその日の記憶を処理し、記憶野に定着させる働きをしている事が判明している。もしも十分な睡眠が取れていない場合、記憶は正確に記憶野に定着せず、そして失われすくなるようだ。

さらには、いくつかの調査によれば、睡眠は記憶違いを減らす効果もある。実験では、被験者は最初にいくつかの単語の羅列にざっと目を通すように指示され、後にその言葉をどれだけ覚えているかをテストされた。睡眠不足の被験者達に、実際には見ていない言葉を勘違いして回答する傾向があった。


FIG-9 免疫力が高まる

来年の契約が切れた時の想像をして心の免疫力を高めている匿名希望のA.H.さん ※MFSから引用



十分な睡眠は一般的な風邪を防げるのだろうか? 一つの予備実験が疑問を実際に検証してみた。
研究者は150人以上の人々の睡眠習慣を2週間にわたってモニターした。そして被験者を風邪ウィルスにさらしてみた。

睡眠時間7時間以下の被験者達は、睡眠時間8時間以上の被験者達に比べ、およろ3倍風邪を引きやすいという結果になった。睡眠と免疫の関連性を確立させるには、さらに多くの調査期間が必要になる。結論を導き出すにはこの研究では不十分な事も事実で、他の要員が免疫には関連している可能性もある。それでも、もしそれが可能であるなら8時間睡眠は君の助けになるだろう。























本を読んで
8時間寝たら
健康だし
夜はバッチリだし
落車しても痛くねぇし
痩せて
気分も上々で
イェロージャージじゃねぇかっ!

乗るっきゃねえなっ!このビッグウェーブに!


2014年8月19日火曜日

MANUAL FOR SPEED翻訳記事 (まったリングの王道:読書と昼寝) 前編 (担当:フィル・ガイモン)

※本記事はMANUAL FOR SPEED MFSM-004の日本語翻訳である。全ての内容は元記事からの引用である。よって全ての権利もMFSに帰属する。


MFSM-004
Manual for Speed がお届けする人生マニュアル第4巻:まったリングの王道: 読書と昼寝

※MFSより引用



我々<睡眠と読書-その科学と技>は、チーム・ガーミンシャープのアレックス・ハウズとフィルガイモンとのパートナーシップを結んだ。
フィルは実際に彼の脳内に溢れる言葉を記した本を書き上げたし、アレックスは世界的に有名なブック・クラブの主催者である。(Pro Cyclist Book Club)その上、彼らには、いつ、どこででも一瞬で寝られるという天賦の才能があるからだ
今回のMFSの特集は、2014年USAプロチャレンジ前のティンバーランド・コンドミニアム内(公園のベンチやフィットネスクラブ、彼らのホテルの部屋、チームバス、サウナ、スキー中、移動用簡易トイレの中など)からお届けしよう。
今回の記事の収録中、コンドミニアム内をまったリングスポットを求めて彷徨っていた我々(アレックス、フィル・MFSスタッフ)は、チームバスに向かう途中の天才軍師ウェゲリウスDSと偶然遭遇する事になった。(おまえら何しとんねん、という冷たい視線を軍師は投げながら去った)皮肉な事に、アレックスとフィルがのんびリングを求めている時に、よりによってもっとものんびリングと程遠い人物に遭遇した事により、彼らには癒しが必要となり、この事が今回の<のんびリング実験>の良いデモンストレーションになったのである。



MFSM-004 PART1: 読書のまったリング



FIG-1:心への刺激:

クッキーとプールはエグゼクティブのたしなみ ※MFSより引用




研究により、心への刺激を受ける事で脳はアクティブになり、脳を再活性化させ、アルツハイマーや認知症の進行を遅らせる(あるいは防ぐ事さえ出来る)事が判明している。体の他の部分の筋肉と同じように、脳を活発で健康に保つ為には定期的なエクササイズが必要なのだ。そこで、名言「使わなければ衰えるのみ」も君が記憶して始めて役に立つのだ。パズルやチェスなんかのゲームをする事も、人間の認知能力への刺激になると判明している。
(※写真と本文に恣意的な関係以外はありません)



FIG-2: ストレスの軽減



いけすかないチームメイトとの添い寝はストレスである。※MFSより引用


君が仕事や人間関係、あるいは数え切れない程の日常の出来事でどれだけのストレスを受けていても、君が素晴らしい物語に夢中になってさえいれば、どんなストレスも草原を吹き抜ける妙なる風の如しである。
素晴らしい本(薄くても厚くてもいい)は、君をどこか別の世界に誘ってくれる。物語は君の心を解放し、今この瞬間に集中させ、緊張を解きほぐし、まったリングの雅な世界へ誘うのだ。
(※写真と本文に恣意的な関係以外はありません)




FIG-3: 知識




クッキーはミーの知識である ※MFSより引用


君が何を読んでも、君の頭は新しい情報の欠片で満たされる。でも君は詰め込んだ情報が役立つ時を知らないかもしれない。読書をすればするほど、君の装備は旅人の服からロトの鎧に進化し、この先君が出会うどんな困難にも立ち向かう力をくれるのだ。
加えて、読書は思考の食事とも言える。自分が今までに遭遇した最悪の状況を振り返ってみるといい。仕事も、持ち物も、お金も、さらには健康さえ失われた最悪の状況でさえも、知識は君に残った最後の装備なのだ。
(※写真と本文に恣意的な関係以外はありません)



FIG-4: 語彙を拡げる




クッキーはミーの語彙である ※MFSより引用


これはFIG-3と関連している。本を読めば読むほど君は新しい言葉のシャワーを浴びる事になる。そして新しい言葉は、必然的に君の日常会話に現れてくる。明瞭に自分の考えを表現する力は、どのような職業でも役立つ技術だ。自信を持ってより高いレベルで会話が出来る事が分かれば、君の自尊心は大いに増すだろう。本をよく読み、上手に自分を表現し、いろんな知識を持った人は、語彙が少なく、文学や科学の進歩、世界情勢に関心がない人間よりも、より早く、より頻繁に昇進する傾向がある。これは君のキャリアの助けにもなる事だろう。

読書は語学習得にも不可欠だ。非ネイティブの人達が、読む事で新しい言葉に出会い、スピーキング能力とライティング能力も開花させて行くように。
(※写真と本文に恣意的な関係以外はありません)



FIG-5: 記憶力の増加




どいてくんない? ※MFSより引用



読書をする時、君は多くの登場人物や、彼らの背景、彼らの目的や歴史、微妙な立場の違い、また登場人物を翻弄する物語の本流や伏線を覚えておかなければならない。それは膨大な量の情報になるが、驚くべき事に、君の脳はその全てを記憶し、そして情報の関連制までも記憶出来る。さらに驚くべき事に、全ての新しい記憶は新しいシナプス(脳の論理回路)を作り出し既存の記憶をも補強するのだ。このプロセスは短期記憶の呼び出しを高速化し、感情を安定させる効果も担う。イケてね?
(※写真と本文に恣意的な関係以外はありません)



FIG-6: 集中力を高める




トイレでマルチ・タスキング ※MFSより引用


今日のようなインターネット社会では、ながら仕事の習慣化により、我々の注意力は膨大な数の誘惑に負けやすい。 標準的な人でも、たった5分間の仕事の間に、メールチェックをし、何人かとチャットをし(GoogleやらSkypeやらで)、TwitterのTLをチェックし、スマホもチェックし、同僚とのやり取りを同時に行っている。この手のながら仕事は我々のストレスを増加させ、生産性を落としている。

読書をする時、君の全ての注意力は物語に集中している。たとえ読んでいる間に世界の終わりがきたとしても、君は物語の素晴らしい襞の中にどっぷりと浸かって気が付く事もないだろう。仕事前の15〜20分の読書を試してみるといい。(例えば君が電車通勤ならその電車の中で)そして、会社に着く時には、自分がどれだけ集中出来たかに驚くだろう。
(※写真と本文に恣意的な関係以外はありません)




FIG-7: 心の落ち着き




※MFSより引用


読書はリラックス出来る事に加えて、良い本は心に平静と落ち着きをもたらす効果がある。スピリチュアルな文章は血圧を下げ、心に大きな落ち着きをもたらし、自己啓発本は沈んだ気持ちや精神の不調にある人を助ける事が分かっている。
(※フィルが持つ本に恣意的な関係以外はありません)



FIG-8: お金のかからない楽しみ




※MFSより引用


我々の多くは、本に書き込んだり、後で読み返す為に折り目を付ける為に本を買うのが好きだが、それはちょっとお金がかかる。
お金をかけずに楽しむ為に、図書館に行ってみるといい。そこでは素晴らしい分厚い本(昨今の図書館は薄い本もあるかもしれないが)の山に、無料でたっぷりひたる事が出来る。図書館は定期的に蔵書を整理し、新刊を取り入れるので、君が読む本が尽きる事はない。

もし君が図書館のない土地に住むハメになったり、図書館に行く足がなくても心配する事はない。ほとんどの図書館はその蔵書をPDFやEPUBの形式で公開していて、君が持っている電子ブックリーダー、iPad、PCで読む事が出来る。ネットにはフリーの電子書籍がたくさんあるので、なにがしか読む本を探しに行こう。

文字を読む事が出来る全ての人が満足出来るジャンルがこの世界にはある。あなたの好みが古典文学でも、詩でも、ファッション雑誌でも、伝記でも(Pro cycling 10$ a dayをよろしく!)、宗教でも、ジュブナイル文学でも、自己啓発本でも、ストリート文学やロマンス小説でさえ、どのジャンルでも君の興味と想像力を刺激するジャンルがあるだろう。コンピューターの前から離れ、本を手にとって広げてみよう。そして、君の魂をしばし充電してみるのだ。
(※写真と本文に恣意的な関係以外はありません)




(後半、アレックスハウズ編に続く)


2014年8月7日木曜日

第一章: <掴んだ藁-9>: TAKE WHAT YOU CAN GET : Pro Cycling on $10 a Day: From Fat Kid to Euro Pro

ポケットに5ドルだけ(RACE WITH A $5 BILL IN YOUR POCKET)



 U23全米選手権でのいくつかのDNF(途中棄権)と期待外れの成績の後、シーズンの残りのレースはたった2つだけになった。南カリフォルニアのグリーンヴィルで開催された全米プロ選手権でのパリ・マウンテンを僕は先頭で越える事が出来た。だけどそれを誇らしく思う気持ちにはなれない。ふもとの鋭角コーナーで落車してしまったからね。

  ユニヴェスト・グランプリになっても僕はパッとしなかった。蒸し暑いペンシルバニア・サウダートンの朝、僕らはスタートラインに立ち、号砲が鳴って、僕がペダルを踏み出した時、リア・ディレーラーがホイールの方向へ曲がり、ディレーラーは折れ、スポークは裂けた。僕はアクチュアル・スタートの場所にすら行く事が出来なかった。僕のレースはそこで終わった。僕はその朝、縁石にぼんやり座りながら、チームメイトの苦闘を屋外モニタで見つめていた。ランチを食べるお金もなく、ただエナジージェルを咥えているしかなかった。


 道は遙か(KEEP AN EYE ON THE BIG PICTURE)



 こうして僕のプロとしての1年目は終了し、僕は翌年の事を考えた。僕はプロ1年目でたいした成績を残せなかった。なので、US代表チームをスポンサードする事になったVMGは、僕に声をかけてはくれなかった。僕は全てのプロチームにメールを送ったが、返事をくれたのはジョージアを拠点にした<いらちのジョー(jittery Joe’s)>だけだった。その文面にはたった一言、「もっとたくさんのNRCレースに出ろ」というものだった。NRCというのは国内レースカレンダー(National Racing Calendar)というプロの選手権レースの事だ。所属するプロチームを探している僕にとっては「おとといきやがれ(FuXX  You)」と言われたも同じ事だった。

 その時、僕は自分にプロとしての十分な資質があると信じていた。全てのチームが僕を無視する事にすごくイラついていた。今思い出してみると、なんか滑稽な話だ。僕の元チームメイト達も同じような哀れな境遇だった。彼らはジュニアカテゴリーでは輝けるスターだった。だけどその時から2年経った今、レースシーンに残っている奴は1人もいない。英才の彼らが自転車をやめ、凡人の僕がまだ乗っているというのは不思議な事だけど、もしかすると、彼らにない何かを僕は持っているのかもしれない。あるいは、僕をこの世界に引き留めている<何か>を彼らは見切って、この世界から去って行ったのかもしれない。実際のところ、エリート・プロの世界に脱皮する為に必要だったのは、才能や競技への取り組みではなかった。人生の厳しい時期に一番必要だったのは<前向きな気持ち(willingness)>だけだったんだ。

 僕はそれまで本当の意味でのプロではなかった。扉は開いたのに、僕はその扉の中に入る事が出来なかった。今、僕はその扉から尻を蹴られて追われ、僕は決断を迫られた。
 
 「お前はこのままアマチュアとして会費を払ってレースを続けたいのかい?プロになって、他の皆よりも稼ぐ事が出来なくてもプロになる価値があると思うかい?クラッシュしても、家になかなか帰る事が出来なくても、雨のなか長い時間乗り続けても・・・・・・・・
 
 <それでもお前はプロになる価値はあると思うかい?>

 ロードレースのおかげで、僕の毎日は、他の人のウィークエンドのようだ。毎日好きな事を毎日していられる。トレーニングライドの途中、フロリダのマイカノピィにあるピール・カントリー・ストアのベンチで冷たいたっぷりのアイスティーを楽しむ事も出来る。茹でたてのピーナツを友達のデイビッド・ガッテンプランと分け合う事も出来る。それでも僕は誇りをもって言える。<僕は今働いているんだ>って。

僕はこの競技の素晴らしさを分かりはじめたばかりだった。だけどこの先にはもっと光輝くものがあると分かっていた。見知らぬ田舎道をくぐり抜ける道を見つける事はひとつの芸術だ。例えその道を通るのが世界で僕一人だとしても。この競技に出会ってはじめて、僕の心の奥底の、本能としての<競争心>は完全に満たされた。そして僕の心と体はまだ未完成だった。契約の最終週に、僕は自分の部屋にローラー台を持ち込み、自転車のハンドルに即席のテーブルをこしらえて、トレーニングをしながら勉強出来るようにした。僕はそれまで、とてもたくさんの場所を訪れ、ユニークで心に残る経験をした。ロードレースがあったから、バハマの珊瑚礁やカリフォルニアのレッドウッド公園を体験する事が出来たんだ。もし僕が尻尾を巻いて普通の学生フィルに戻ったら、僕のこれからの人生でどれだけの素晴らしい場所や出会いを逃す事だろう?
<<もちろん!自転車はぼくの人生を賭けるだけの価値があるんだ!>>


 僕はしばらくアマチュアとしてしか走れないかもしれない。だけど僕は絶対に再びプロに戻ると決心した。そしてより厳しいレベルのレースで自分を鍛えるんだ。風の噂でヨーロッパでのドーピングの現状を聞いていた。だけど僕はそんなものの助けなしに自分の夢を達成しなければ意味がないと分かっていた。もしかしたら、僕はドーパー達のように檜舞台のレースで勝利する事は出来ないかもしれない。だけど、空に向かって自信を持って手を上げられる勝利でなければ、その勝利になんの価値があるだろう?僕は自分を信じてくれる人達をがっかりさせる事だけはしたくない。その時の僕は、プロの世界では実際にどれほどのドーピング禍がはびこっていて、まもなく巨大なスキャンダルの波が、この競技を存亡の危機に陥れるという事をまだ知らなかった。

 僕が自分の目標を決めた時、僕はどれだけ多くの才能溢れる人達がロードレースの世界で身を立てようと藻搔き、そして消えていったかを知っていた。さらに、彼らは幼い事からの英才教育を受けていたのに、僕はただのデブの高校生からの周回遅れの出発だ。いったいどうやって、それだけの人達が成し遂げられなかった夢を僕は実現出来るだろう?答えはシンプル。周りの誰よりも努力するんだ。僕は彼らよりもっと集中し、自分の全てを捧げ、そして誰よりも自分に厳しくしなければならない。計画はなお漠然として道は遙かに遠い。でも僕は出来ると信じていた。


 今振り替えると、その当時の僕の頬を引っぱたきたくなるけどね。




(第一章:TAKE WHAT YOU CAN GET 終わり)





2014年8月5日火曜日

本書への献辞 : Pro Cycling on $10 a Day: From Fat Kid to Euro Pro

各界から続々と寄せられるミーへの 絶賛の嵐
PRAISE FOR PHIL GAIMON



 “プロサイクリング界がその威信を大きく失っていた時、フィル・ガイモンは、その知的で、ユーモアに溢れ、ストレートで、そしてなによりも裏表のない物言いで、この世界に突如現れた。大卒の1人のニワカ・プロとして、また成り上がろうと奮闘する1人のアウトサイダーとして、時には生活の為に自転車に乗るプロの自虐節を交えながら、ガイモンのプロサイクリング界への洞察は幅広い読者の共感を呼ぶ。彼が語るのは単純な<勝ち負け>以上の物語。まさに君が求めていた話だろう”

          -ヴェロ・マガジン



 (´-`).。oO ”この数年の間、フィルの走りに熱視線を送っていたんだけど、(いやね、シモの意味じゃな・く・て)彼って、何でも出来る多彩なライダーだってよく分かったわ。それ以上に、彼って面白いし、頭いいし、そしてとても個性的な選手なの。チームに新風を吹き込んでくれたわね”

        -ジョナサン・ヴォーターズ  (チーム・ガーミンシャープ CEO)



  “クリーンな競技への熱烈な信者として、ガイモンはその上腕にクリーンと記された石鹸のタトゥーを彫っている。だから彼はガーミンシャープの持つヴィジョン(ethic)に惹きつけられていったのだ”

       -CyclingNews.com



  “小粋でタフ、そして鉄の信念を持ったライダーだ”

     -ポディウム カフェ



  “フィル・ガイモンは全ての野心的なサイクリストの理想像だ。ガリガリで速く、そしてクリーン。彼はプロになるという夢の為にアタックし、そして最後には僕と同じ悪夢を見た。この本を読むと、彼が真実を語っているという事が分かるだろう。自転車レースは厳しい。だが、プロになるって事は更に厳しい道だ”

      - ブラッド・ハフ (プロ・サイクリスト -Optum presented by Kelly Benefit Strategies)



  “本書(日給10ドルのプロ)こそ、僕らが聞きたかった物語だ。普通の男が、デブのアマチュア・ライダーから、ヨーロッパ・プロツアーのトップ選手に短期間に上り詰める。自分の道を探し、自分の持っているものだけを使って最上の選択をする。フィルの語る物語は、これからプロサイクリングの世界に入る人達に、努力が実を結ぶという希望を与える。フィルの話を聞いたなら、注意を払い、出来るだけベストな人々と一緒にいるようにする事だ。そうすれば叶わぬ夢はない”

     -ジェレミー・パワーズ (プロ・サイクリスト - Jelly Belly Cycling Team and Team Rapha-Focus, 二回の全米シクロチャンピョン)



 “フィルはレース・シーンでベストを尽くすべく懸命にトライした。彼は自分の車の中で暮らし、ハードなトレーニングをこなし、レースに出走する為に何時間も車を運転した。それでも、レース会場ではいつも準備万端だった。彼は簡単にそれをこなしていたわけじゃない。僕は本当の所がどうだったのか彼の口から直接聞いた事はない。でも、彼がいつでも、自分の為、そしてチームの為に、地面に倒れるまで追い込んで挑戦し続けてきた事を僕は知っている”

     -フランキー・アンドリュー (チーム監督 - 5-hour ENERGY  presented by Kenda, 9回のツール・ド・フランス完走。そして、2回のオリンピック全米代表)





2014年8月4日月曜日

第一章: <掴んだ藁-8>: TAKE WHAT YOU CAN GET : Pro Cycling on $10 a Day: From Fat Kid to Euro Pro

生活かかるとオイラは強くなる


 春休みの間、僕はチームメイトとカリフォルニアで二つのレースに出た。カテ1に昇格する為のポイント稼ぎの為だ。二つのレースの間、僕らはレッドウッド国立公園でハイキングをした。そのハイキングがチームが打ち解ける為のオリエンテーションだったのか覚えていないけど、僕がやたらとおならをしていたのだけは覚えている。僕の後ろを歩いていたアレックス・ボイドがしきりと「この不可思議な異臭の発生源」をつきとめようとクンクンしていた時、僕は笑いをこらえるのに必死だった。今だから言えるよアレック、その異臭の発生源は僕だ。

 僕は春学期を終える為にフロリダに戻り、1ヶ月以上経った後、チームがクッターウン(東ペンシルバニアにあるアーミッシュの町)に借りた夏遠征用の家で再びチームと合流した。クッターウンへ向かう途中、僕はテネシーで開催される4日間のステージレースのために寄り道をした。賞金はナイスで参加者は少ないという理想的なレースだ。いつものような安宿の予約が全然出来なかったので、僕はもっとお高いホテルに3泊せざるおえなかった。(その当時の僕にとって、一泊99ドルは痛い金額だった。いや失敬。今でも十分痛いす!)実を言うと、ホテルをチェックアウト出来るだけのお金が財布にないまま、僕はチェックインしたんだ(勇者だろ?)勝たない限りホテル代は払えない。そのプレッシャーがもしかしたら、最終ステージで僕に強烈なアタックをさせて総合11位から2位へジャンプアップさせたのかもしれない。僕は賞金の850ドルをチームメイトの助け無しに獲得した。つまり賞金は独り占め。なかなか悪くない週末だったよ。

 ハッピーな気分でレース会場を後にした僕を待ち受けていたのは、クッターウンでのチームハウスだった。二階建て、エアコンなし、寝ていると噛んでくる虫付きのホワイト・オーク通りの物件だった。家賃はチーム持ちで、まぁ、どの角度からこの家を見ても僕らの成績からすると分不相応なぐらいだったけど、それてもモヒート(ラム酒)とホラ貝のフリッターを楽しんだバハマでの酒池肉林からは程遠い現実だった。家は狭く、ジャージ男がギュウギュウで、通りを隔てた家に住んでいた年金暮らしのご夫婦は、カーテン越しに奇異の目で家の中を覗き込んでいた。老夫婦はきっと、何人のタイツ男がこの狭苦しい家にギュウギュウに詰め込まれているのだろう?と不思議に思った事だろう。何人かの選手はダンに泣きつき、レースの結果が思わしくないのをエア・マットレスや劣悪な住環境のせいにして文句を言っていた。牢獄の鉄格子を描いた僕らの窓越しの写真をダンに見せながら。確かに、ベッドやよりましな住環境は、僕らの成績をアップさせたかもしれない。でも、僕はそういう環境面の充実が一番大切な事じゃないと思っている。そして、ダンは限られた予算の中でよくチームを切り盛りしていた。

 チームと一緒に寝起きするのは良い事だった。ほとんどのチームメートは別々のトレーニングメニューをこなしていた。でも、いつも一緒に走り、お互いに誠実に、そして刺激しあって生活していた。あるチームメイトが5時間のライドに出かけると言って家を出て、4時間で帰ってきた場合、僕らは彼が家に入ってこられないようにドアをロックした。

 火曜日と金曜日の夜には、僕らは近くのトレックスレアタウンにあるヴェロドームでトラックレースをした。夜に4本行うトラックレースは、とても良い戦術練習になった。僕は考えられる全ての作戦をなんでも試し、実行し、そしてたいていは失敗した。たくさん失敗をした事で、逃げの間に上手く立ち回るのがいかに大変か学んだ。いつアタックすべきか?、どこで我慢すべきか?


 7月、僕らは毎朝テレビの前に集まり、ツール・ド・フランスを見ていた。僕らはフロイド・ランディスが大逃げを決めて8分もの大差をひっくり返し、マイヨジョーヌを奪取したレースに喝采を送った。その興奮をモチベーションにして、僕らは午後のトレーニング・ライドをハードにこなした。その夏一番のきついトレーニングだった。数週間後、ペンシルバニアの5日間のステージレースの途中で、誰かがツールのドーピング・テストでポジティブになったという噂が広まった。レースの折り返し点で、レディオ・ツールからその事実は伝えられた。フロイド・ランディスがポジティブとなり、マイヨ・ジョーヌを剥奪されたと。噂は野火のようにプロトンに広まり、数マイルにわたってプロトンはペースを落とした。だって、誰もがレースっていう気分じゃなかったんだ。もっと年上の選手達はそれほど驚かなかったろう。彼らはそんな時代に生きていたし、ヨーロッパでのレース経験のある選手もいた。


 だけど僕ら若い世代にとっては、僕らに勇気を与えてくれたヒーローが天から墜ちた瞬間だったんだ。




(続く)





Phil Gaimon


2014年8月3日日曜日

第一章: <掴んだ藁-7>: TAKE WHAT YOU CAN GET : Pro Cycling on $10 a Day: From Fat Kid to Euro Pro

ドーピングというお仕事


 僕達の最初のレースはツール・ド・バハマだった。3日間で行われるステージレースで大会のスポンサーは(どこだと思う?)VMGだった。このレースの為にバハマの道路のくぼみは埋め立てられ、道路は舗装し直された。VMGチームのプロ選手全員と、わずかしかいないVMG所属のトライアスリート、そしてチームスポンサーのVIP達で僕達の冠レースに臨んだ。迎え撃つは、フロリダを拠点にしているほとんどのアマチュアチームと、小規模のプロが1チームだった。僕はプロローグを2位で終え、そして降り注ぐ雨の120マイル(192キロ)のロードレースで、脚の痙攣と引き替えに大逃げを決め、その時点で総合5位、チーム内トップの成績だった。そのレースは僕がドーパーと戦った5回目のレースだった。マイアミのJCインベスタチームのリカルド・フェルナンデス、彼もまた、別のステージで大逃げを決めた。最終ラップで単独アタックをした彼を、プロトンは全力で追った。だけど差が縮まるどころか、彼は追走の倍のスピードで。その差をみるみる広げた。僕は彼を追いながら、たとえ今、奴の首を切り落としたとしても、そのままガッツボーズで勝つんじゃないかとさえ思っていたよ。リカルドは後に成長ホルモン(HGH)使用の疑いで2年間の出場停止になった。

 二月のこのレースでの僕の活躍と、僕の独得な作戦、そして、合格ラインに達した僕の実力を踏まえ、マーク・ホロウィスコは僕に4倍の8,000ドルという金額を提示した。これはプロ・サイクリングの歴史の中で、カテゴリー2の選手に提示された最高金額だ。僕はいきなりサラリーが4倍になる理由がよく分かってなかったからとまどっていた。でもチームメイトのデイビッド・ガッテンプランは僕にいくつかの良い助言をくれた。

「もらえるもんはもらっておけ(Take what you can get)」

彼は言った。

「そして、いいか。もらった金は大切につかえ。」

デイビッドがこの額で契約出来ていたのはわずかの間だった。そして、彼は、二度とこの時ほど稼ぐ事は出来なかった。


  僕らはバハマのレースの後オーランドへ飛び、そこから車で2時間かけてゲインズビルに帰った。僕はバハマでの冷たい雨と脱水症状、そして舗装仕立てのアスファルトの匂いでフラフラだった。だけどなんとか飛行機にころがりこんで、学校の試験に向かった。たった4時間の睡眠と痛みで引きずる足をかかえながら、講堂の最後尾の席に潜り込み、机の上にマークシートの回答用紙と、学校に来る途中に寄ったガソリンスタンドの宝くじ売り場からくすねてきたHBの鉛筆を置いた。前の席に座っていたソロリティ・クラブ(女子の社交クラブ)のTシャツを着た女の子達が、アメフトの試合の後の打ち上げで、全然勉強する時間がなかったと嘆いていた。彼女達は「勝ったわ!」と、まるで彼女達がフィールドでタックルをきめて勝ったかのように喜んでいた。僕はそれを聴きながらぼんやり思った。

 そうだ、僕は大学のこういう空気から逃げる事が出来るからサイクリングが好きなんだ。

レースでの僕はスーパーヒーロー。だけど、こうして講堂の席に座っている僕は、「1人の学生フィル」という僕の単なる分身だった。ハードなレースシーンと比べると、学校ってなんてチョロいんだろう、と可笑しかった。この現実世界には、レースと違ってチャンスが公平に与えられない。

  僕は相応の成績で大学に入学したので、僕のクラスは厳しい宿題を僕に課さなかった。(訳注:いつものガイモニック・ジョーク)でも、僕はレースがあっても、なるべく授業には欠席しないように気を付けていた。英米文学科は、3回以上の欠席で自動的に成績が1ランク下がるという決まりになっていた。(訳注:アメリカの大学の成績はletter gradeと呼ばれ、A〜Fのランク付けで評価される。原文では”or you’d automatically lose half a letter grade” つまり、Aの成績の学生が4回欠席すると、A-になるという意味) だから、僕はいつも、金曜日の午後にレースの為に学校を抜けだし、そして夜通し車を走らせて、月曜の朝に学校に戻っていた。




(続く)





Phil Gaimon