宣言文(Statement)
ロンメルにて, 2015年3月20日
何週間も僕は考え続けた。深く深く、僕の考えの断片を慎重に拾いながら。僕は選択肢をひとつひつ検討した。僕は自分の心にも慎重に耳を傾けてきた。そして今、心を決めたよ。
僕はサイクリングをやめる。
僕はサイクリストとして多くの経験をしてきた。勝ちもしたし負けもした。崖に落ちて、そして再び這い上がった。僕は自転車に乗る事で自分の本当の姿を知る事が出来た。コインの面と裏、そして煌びやかなコインの外見に隠されたボロボロの姿も。
若い売り出し中のサイクリストとして僕が心の底から欲しかった事はたったひとつ。なるべく多くのレースで勝利する事。どんな犠牲を払ってでもレースに勝ちたかった。それは僕の強さの源だった。そして同時に、それはぽっかりと開いた暗い穴への入り口でもあった。その穴は、僕を自転車に乗り始めた場所からはるか遠い場所に連れだし、深く、深く、ゆっくり僕を沈めていった。
最近になって、僕は自転車レースでの勝利よりも素晴らしいものが人生にはたくさんあるってやっと分かりかけてきた。僕はこの世の栄誉を全て独占したい為に走っているんじゃない。このスポーツが好きだから走っているんだって。だから、僕は自分と同じ過ちを繰り返して欲しくなくて、若いサイクリスト達に僕の過去を打ち明けてきたんだ。
サイクリストとしての最後の1時間、僕は全身全霊をかけてアワーレコードに挑んだ。僕は今でも自分が速く走れる事を証明したかった。そして自分に確かめたかったんだ。「お前は今でもサイクリストでいたいのか?」って。アワーレコードへの挑戦から数週間経った今、その答えははっきりとしたよ。
僕の今までの人生は全て自転車に支配されてきた。でも僕はこれ以上、フォームや機材、チーム、誰にも何にも捕らわれたくないんだ。
僕のプロサイクリストとしてのキャリアは美しく、醜悪で苛烈、そして教訓に満ちたお伽話だった。
僕は生きていくよ。もう自転車は必要ない。
トーマス・デッケル
オリジナル