(2016年2月12日。ブルターニュにて行われているトレックチームキャンプの宿舎)
フランク:
アンディ、お先。お前もシャワー使えよ?
…ん?なんだよ、TREKのジャージ抱いて寝ちゃったのか。
へへ、こうやって寝顔見るとスタジエル(セミプロ)の時、いやぁジュニアの時に一緒にユングの峠を目指して競い合っていた頃とちっとも変わらないな。兄貴風吹かしていられたのは一緒にレース始めた数年ぐらい、お前はあっという間にオレを追い越して、まったく兄貴の面目丸つぶれだったぜ(笑)。
(アンディのベッドサイドに腰を下ろす)
でもなぁ、悔しいって思ったのは最初だけだった。僕にはお前の才能が眩しかったよ。もしお前が弟じゃなけりゃ、僕はお前を妬んでいたかもしれない。でもお前は弟で溢れんばかりの才能と未来があった。僕だって夢見たさ。マイヨジョーヌに袖を通す事を。多分バイク乗ってないと分からなかったかもしれないな。神様は不公平で世の中には僕達が想像も付かないような才能を持った奴がゴロゴロいる。僕では太刀打ち出来ない奴らもいる。でも、お前を、お前の才能を僕が補えば、そういう化け物にも太刀打ち出来るかもしれないって…。
不思議なもんだな。才能あるお前はその若さで引退し、僕はまだ走っている。何故なんだろう?もし僕が赤の他人で、お前の忠実なドメスティーク(アシスト)だったなら、それでも僕はお前の背中をどこかで刺したかもしれない。所詮他人の利害関係さ。他人がお前を勝たせたいと思うのは自分にメリットがあるからだ。
でも僕はお前の兄貴だ。チームの解散も逆境も故障も、僕達の血を分かつ事はできやしない。この世界がどんなに生き馬の目を抜くような厳しい世界でも、ずっと背中を任せられる相手がいれば、お前は自分の力を出し切る事に専念出来る…。そう思っていたんだけどな。僕はお前を守ってやれなかったのかな….。
でも引退してからレースにまったく関わらなかったお前がキャンプを見学したいって言ってきた時は驚いたよ。どういう風の吹きまわしだってな。お前は理由を話さないけどさ。まったく幸せそうな寝顔しやがって。やっぱり現場の空気は落ち着くのかな?なんの夢見ているんだろうな。時々なにか囁いているけどな..。すっげー気になる….。
おい、アンディ、アンディ、起きろ。(アンディをゆするフランク)
アンディ:
…うぅうん…..。あぁ….兄さん、おはよう….。いつルクセンブルクに帰ってきたの?義姉さんは?
フランク:
なに寝ぼけてやがる。今おまえがいるのはブルターニュ。トレックの冬期キャンプだ。おまえが見学したいってねだるんで、無理矢理部屋とってもらったんだぞ。苦労したんだからな。
アンディ:
…あぁそうだっけ?また昔みたいに起きたら兄さんがいるなぁつて思っていたんだけど。
フランク:
お前のそういう大物ぶりは大人になっても変わらないな(笑)。ところで、すっげー幸せそうな寝顔でなにか呟いていたぞ。なぁ、教えてくれ。どんな夢を見てたんだ?
アンディ:
夢?見てないよ。
フランク:
…….。なぁ、アンディ、よく聞け。
アンディ:
うん。
フランク:
お前はもう現役じゃない。だから、ひとから裏切られたり批判されたりを心配する必要はないんだ。それに僕はお前の兄だぞ。僕がおまえを裏切った事あったか?
アンディ:
十歳の誕生日の時に僕のマフィン隠さなかったっけ?
フランク:
よぉく聞けアンディ。お前はもう十歳じゃない。ジュニアの選手達から見たら僕もお前もただのオサンだ。
アンディ:
がーん!
フランク:
(昭和リアクションだな…。)だからな?僕は今までもこれからもずっとお前の味方だ。僕はお前を背中から刺す事は絶対にしない。だから安心してこの兄さんにはなんでも話してみろ。
…で、どんな夢を見たんだ?
アンディ:
見てないよ。
フランク:
………………。っなっさけない!
アンディ:
え”っ?
フランク:
お前にそこまで信用されてなかったなんて…..
アンディ:
えっ?兄さん話がみえない…
フランク:
覚えているか?アンディ、2009年のリエージュだ。あの時のジルベールは絶好調で地元で錦を飾りたがっていた。単独で独走していた奴を僕達二人でラ・ロッシュ・オ・フォーコンで捕まえたな。
アンディ:
…そうだっけ?もう覚えてないよ。
フランク:
あの時、ホアキンとジルベールの波状攻撃を二人背中合わせに牽制しあいながら防いでいた。僕はお前だから背中を預けられたんだ。血を分けた兄弟、こんなチームメイトより信頼出来る。あの時….あの時、僕は幸せだったんだ。
アンディ:
……
フランク:
お前の寝顔、あれは母親の腕の中で安心しきった子供の寝顔だった。おまえ、あのラ・ロッシュ・オ・フォーコンの夢を見ていたんだろう?教えてくれ。アンディ、お前はあの時、どう感じていた?僕と同じように幸せだったか?教えてくれ!アンディ!お前はなんの夢を見ていたんだ!
アンディ:
だからー、夢なんて見てないったら!
フランク:
(肩をプルプルふるわせながら)…この…兄貴の…気持ちも…分からない…放蕩弟がっ!!!
アンディ:
うわっ、ちょっと兄さんやめてよ!
フランク:
なんの夢をみたか白状するまで枕責めの型にしてやるわっ!
(ボフボフボフ)
アンディ:
(バタバタバタバタ)
フォイクト:
ナニシテマスカー!コドモタチ!シュウシンのジカンでーす!オシオキでーす!